2017年09月06日
小屋番ブログ 最近の気になる本『ヤマケイの黒本』 2018.01.10
山で読書は最高のご褒美だ。
薪ストーブの周りでパチパチとした薪の爆ぜる音や香り、暖かさを感じながら読む時間は格別である。横にコーヒーがあったらたまらない。
しかし年に何度あることだろうか。
雪や雨の日、いや台風の日にしかないかもしれない。
今、小屋で本を手に取るのは、一日の仕事終わり、消灯後、火の元や水の管理、戸締りなどを行い、自分の寝床(通称バリケード※)で厳冬期用シュラフに潜り込んだ時だ。
愛用のモコモコシュラフの中はサラサラして心地が良い。そして、すぐに温まるのでぽかぽかだ。
小屋には、登山者用にフカフカの羽毛布団が山ほどある。小屋番は皆使用しているが、自分はシュラフで寝てる。何故シュラフで寝ているかというと様々な利点があり、、まあ、これはまた何時か話そう。
そうそう、シュラフで寝ている場所を食堂テーブルで囲んだ所が、自分の寝床で、歴代スタッフから通称バリケードと呼ばれている。秘密基地のようで中々心地良いのだ。ヘッドライトをつけても目立たないので落ちついて読める場所でもある。
小屋番はすぐ熟睡できる派と、消灯後に音楽を聴いたり余暇を楽しむ派に別れる。自分は、熟睡できないので本の力を借りる。ページを開いて本を読み1ページ、2,3・・・5ページ辺りに来ると眠気が襲ってくる。気が付くと寝てる。だから物語をほとんど覚えてないのだ。そこでまた、最初からという、何とも本末転倒な事で、山では1冊も読めてない。
元々本好きで、これさえあれば何もいらないと思った時期もあった。
今は、この本が読みたいと思うと、とりあえずアマゾンで購入、自宅の本棚か小屋の本棚に置き、いつか読んでやるぞという楽しみにしている。
話しが横にそれてしまったが、今回お話しする本はその中のものだ。
それは、『ヤマケイの黒本』
ヤマケイの黒本とは、山にまつわる不思議な話や体験談を集めた本のことだ。
その中の「新編 山小屋主人の炉端話」や「山のミステリー」は、 昨年、台風時に読めた貴重な本だ。
ウチの大将の話も掲載されていて愛着があるので何回読んでもあきない。
新編ということもあり、他の小屋の親爺さんの話も加わり楽しい内容なので これはおすすめである。小屋関係者から見てもすごい話ばかり。 それぞれの小屋の親爺さんから生で聞きたいと真剣に思う逸品揃いで、これを小屋で聞けたらさぞ面白いだろうなと、読んだ後に行ってみたい山小屋への地図を広げて眺めている。
そして、今回読み始めているのは「山怪 山人が語る不思議な話」という本だ。
本の帯についに10万部突破!!ベストセラーと書いてあったので期待できる。
山里に埋もれつつある「語り遺産」を拾い集めた本らしい。
本のはじめにの中に下記のような一文がある。
「話というものは、本来語られることで生き長らえる。それが現在は語る人も聞く人も
少なくなりつつあるのだ」
小さな逸話が絶滅の危機に瀕していると。
昔、どこの山小屋でも親爺の炉端話が娯楽だった時代がある。
ウチの大将はそれをまだ続けている貴重な存在なんだと改めて気付いた。
オーレン小屋では、主に、7月の学校登山時や8月に小屋の親爺が怪談や遭難救助の話をする。
それは、昔からのお決まりの話で、学校登山の生徒さんを早く静かに寝かせる為の語りである。
また、一般の登山者にこの話をすると隣同士の男女がカップルになるらしい。何とも微笑ましい。
当小屋では50年も続いている娯楽が今では絶滅危惧になっているとは何とも寂しいものだ。
学校登山で小屋に来る中学生は大体年間3000人だとすると15万人もの人に語り繋いでいることになる。
よくオーレン小屋とネットで検索するとキーワードに 「オーレン小屋 幽霊」と出るのはこのためだ。
中学生がネットの知恵袋で「出るんですか?」と聞いたのがはじまりで、今でもよく聞かれる。
この話が何時の日かライブで聞けなくなる日がくる。
今が聞き時だと思う。一般の方でも8月11日山の日は怪談話をしているので是非聞きに来てほしい。
またリクエストがあれば、夕飯の前に、親爺に言ってもらいたい。きっと快く話をしてくれるだろう。
さて以前、山小屋主人の炉端話や山のミステリーの著者、工藤隆雄氏からこんな依頼を受けたことがある。
山の次世代の主人が体験した不思議な話は無いか?という事だ。続編の話だ。
その時は、同じ小屋仲間と顔を見合わせ「何もないね~」と氏を落胆させたものだ。
あれから10年数年、いつも自分の頭の片隅にはそのことが気になっていた。
小屋主人が体験した不思議な事。山の話の原石。
実は、その後様々な出来事が起きたのだ!それは・・・。
それから先は小屋でのお楽しみにしておこう。
ああ、また本題から横に逸れてしまった。
読む本が沢山あるのは、幸せな時間だ。
でも、このシリーズは是非、夜に読んでもらいたい。
私も身震いしながら読み進んでいる。あえて本の内容は伝えないので
ご自身で体験してほしい。
それにしても表紙イラストもリアルに怖いな。
山怪 山人が語る不思議な話 田中康弘
出版社 山と渓谷社
定価:本体1,200円+税
おすすめである。有難いことに待望の第二弾も出ているらしい。
小屋番 岳